COLUMN

第6話 諏訪神社のおみこし

 むかしむかし、今らかおよそ二百四十年ばかり前のことでありました。
 当時、桑折村の百姓として大きな力を持っておりましたひとりに、安 斎長右衛門という人がおりました。
 領主の松平玄蕃頭は、長右衛門を呼び寄せ、手紙を示しながら、
 「京都へ上って、諏訪神社におさめるおみこしを注文してくるように。」 と頼んだのでありました。
 時は享保十七年の秋のことでありました。
 領主さまからの重い役目をおおせつかった安斎長右衛門は身支度をき ちんとし、ふところ深く諏訪神社の注文書をしのばせ京へ上ったのであ りました。
 日数を重ねて京の都に入り御幸町通三条上り二丁目に差しかかりまし たところ、りっぱなおみこしの輝いている店が目にとまりました。
 「この店こそ領主さまからの御注文を受けるにふさわしい店であろう。」 と思いまして店先に入ったのでありました。
 長右衛門は旅のつかれも忘れて、店の主の前に立ちました。店の主は 寺島作右衛門と申す、みこし作りの名人でありました。
 「奥州磐代国桑折郡からかようしかじかな件でみこしを頼みに参りま した。」
と注文の書き付けを取り出したのでありました。すると作右衛門は、
 「それはそれは、遠方たいへんでございました。しかし、そのおみこ しなら、とうに注文をたまわりましたので、手前ども一同で全力をかた むけてお造りいたしました。それが、そこにかざってあるおみこしでご ざいます。」
 と申したのでありました。
 長右衛門は、まるできつねにつままれた思いで、
 「いったいこれはどうしたことでありましょう、くわしくおきかせく ださるよう。」
と申しますと、それは、『今から数か月前の秋の日に、この店さきに、 白衣白髪のご老人が見えられ、かくかくしかじかのおみこしを造って いただきたい。」
といわれ立ち去られたことがあったのでそれからお造り申し上げました。」 とのことでありました。
 念のため、長右衛門が持って参りました注文書に書いてある設計図を 作右衛門とともにあらためてみましたところ寸分の違いもありませんで した。
 白衣白髪の老人が作右衛門の店頭に立ったのは、指おり数えて見ます と長右衛門が桑折を発った日とぴったりでありました。
 「これは、きっとお諏訪さまの神霊のなせる業にちがいないでありま しょう。」
 長右衛門と作右衛門は十年の知己のようにこもごも語るのでありまし た。

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