COLUMN

第7話 入道坊主

 むかしむかしのことでありました。
 とはいいましても、このような話は、あなたの家のだれかも知っているかも 知れません。
 伊達崎の村に源兵衛という年よりがおりました。
 もう楽いん居の身分で、百姓仕事はとうに息子たちにゆずって、ゆうゆうと くらしておりました。
 ある冬の夜のことでありました。
 源兵衛は、桑折まで用たしに行き、どこかの知り合いで酒をよばれ、いい気 げんで帰って来たのでありました。
 さして広くもない道をいっぱいに歩いて、はなうたなどをうたいながら、そ れはもうなれた道のことでありますから、たいしてあぶなげもなく、はや龍泉 寺の垣根にさしかかっておりました。
 どこの寺でも日中はそうでもありませんが夜半ともなりますと、シーンとし ずまり返って、ゾクゾクッとすらするものであります。
 寺屋敷はたいてい広いものですから、樹木などもしげりにしげっているとい うのがふつうであります。
 龍泉寺も例外ではありませんでした。
 源兵衛がツィと垣根をまがったときでありました。
 行く手をすかして見ますと、見上げるような大きな入道坊主がつっ立ってい るではありませんか。
 源兵衛老人、酔った目をこすりましてじっと見つめましたがまちがいなく入 道坊主であります。
 「ハハーン、いたちだな。」
と、ピーンときました。
 『いたちだな。』
と思ったときにはもう化かされているわけでありますが、そこはもう世の酸い も甘いも知りつくしている源兵衛老人のことであります。
 ここでたじろいだら、あとどんな化かされかたをされるかわかりませんから、 から元気を出して、
 「ごめんなんしょ、ごめんなんしょ、ちょっくらごめんなんしょ。」
と手刀をきって入道坊主のわきを通りすぎたのでありました。
 ずうっと行き過ぎてからふり返ってみますと、入道坊主は、また同じところ に、スックと立っているのが見えました。
 その入道の頭は、まるで山のようで、へこんでいるところは谷のように見え たということでありました。
 源兵衛老人が家に帰ったころには、酒の酔いもすっかりさめておりましたが からだの中は、汗でビッショリになっておりました。
 「いい年して、いだちんなんて化がんさっちぇ。」
といわれるのがくやしくて、源兵衛はこのことを誰にも言いませんでしたがそ れからは夜は龍泉寺のそばを決して通らなかったということであります。

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