COLUMN

第9話 睦合の弘法水

 むかしむかしのことでありました。
 伊達の郡一帯を、弘法大師という位の高いお坊さんが行脚をして、睦 合のあたりを歩いておりました。
 この弘法大師。仏法を説くばかりではなく、困っている人をいろいろ と助けてあげたり、善い行いの人をほめたたえたり、またその反対の人 に対しましては、きびしくいましめたりするという方でありました。
 その姿も、いろいろに変わり、一目でそれとは見定めかねるようなと ころもありました。
 睦合の坂町のあたりに来かかったときは、まるで、こじきのような姿 をしておられました。
 坂町の清水にさしかかりますと、ちょうどその辺で、夕飯の支度なの でありましょうか。米をといでいる女の人がおりました。
 弘法大師は、、
 「どうか、水をひとわん、のませてくださるよう。」
と合掌しつつ、静かにお願いをしたのでありました。
 「なあんだ。だれかと思ったら、こじきでねえが。」
 そう思った女は、ぶっかけたおわんに、米をといだ白い水をくんで差 し出したのでありました。
 その女は身なりで人を見たのでありました。
 大師は、飲んだふりをして、おわんをおき、形どおりに礼を申しまし て、そこを立ち去ったのでありました。
 それから、またずうっと歩いて、弘法大師は平沢にまいりました。
 こんどは、本当にのどがかわきましたので、清水のあるところを探し ましたが、みあたりません。
 そのうち、農家がありましたので、
 「水をいっぱいいただきたい。」と申しました。
 そこの家の女の人は心のやさしい、親切な人でありました。みなりは こじきでありますが心は良い人と見ぬいたのでしょうか。
 「そうですか。すぐに差し上げたいのですがいい水がありません。今 くんできますから待っていてください。」
と言いおきまして、下の方の泉まで行って、きれいな水をくんで来てさ し上げたのでありました。
 「かたじけなかった。もうこの辺にもきれいな泉がわくであろう。」 とつぶやくと、その場を去っていかれました。
 それから、このかた。
 坂町の清水はいつも米のとぎ汁のような白い水がわき出ております。
 平沢の清水はいつもかがみのようにすんだ水がわき出ております。
 弘法水。
 弘法清水。
 それは今も、あちこちにのこっております。

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