COLUMN

第14話 松嶋屋のゆうれい

 むかしむかしのことでありました。
 伊達郡の桑折に松嶋屋という、今でいえば旅館のような、たいそうはんじょ うしている家がありました。
 当時、そのようなところを使うのはよほどのお金持ちか、位のある人であり ました。
 平山市兵衛という人も名士であたりにきこえた方でしたからよく客をもてな すため松嶋屋へ行っていて顔なじみでありました。
 その日も客を招いて宴をひらき、終わってから市兵衛はそのまま泊まり込ん だのでありました。
 夜中に、まだ半分酔ったままで便所へ行ったときのことでありました。
 何の気なしに便所の戸を開けて見ますと、これはいかに。中にひとりの女が いるではありませんか。
 よくよく見ますと姿は芸者ですが、顔は、なんと猫でありました。
 おどろいて次の戸を開けますと、そこにも全く同じような姿の芸者がいるの です。
 これでは便所で用をたすわけにもいきませんし、だいいち気持ちわるくて仕 方ありませんのですごすご引き返してまいりますと、旅館の女主人が、物音に 気付いたものと見えまして近寄ってまいりました。
 何か話そうと近寄りますと、ちらりと女主人の着物が触れました。その肌ざ わりは、あの猫のはだざわりでありました。
 「ウーン。」
と、市兵衛は気を失ってその場にへたり込んでしまいました。それから何時間 たったことでありましょうか。
 市兵衛が気が付いたときは、もう別室に運ばれふとんがかけられ、女中達か らは、まるで病人のような扱いを受けていたのでありました。
 あとでわかったことですが、あるとき、松嶋屋につとめていた芸者のひとり が病気にかかったのを、便所のそばのうすぐらい部屋にねかせたまま、ろくろ く看病もせず、薬などもあたえないでおいたのでほどなく死んでしまったこと があったそうでした。
 旅館に病気の芸者はたしかにやっかいものだったでありましょう。
 もちろん松嶋屋ではそんなことを、ひたかくしにして来たのでありましたが それ以後というもの、その芸者の亡くなった部屋や、その近くの便所などから 真夜中に女のしのび泣く声がきこえて来たり、また廊下に、きれいな島田まげ を結った女がつっ立って、いつまでも、にたりにたりと笑っていたことなどが あったそうです。
 でも、猫の顔のゆうれいが松嶋屋にあらわれ、しかもそれがなじみの客に見 られたのだから、ただではすまされません。
 松嶋屋では、亡くなった芸者のために、おくればせながら盛大な法要をして やったのでありました。
 それっきりゆうれいはあらわれなかったそうであります。

Copyright© 2004-2007 Tada Construction Co.Ltd. All Rights Reserved.