COLUMN
第16話 あずきとぎばあさん
むかし、むかしのことでありました。
半田山のふもとには大きな木がしげり、ポツポツとですが人も住むよ
うになっておりました。
うっそうとしげった林や森。そんなところにある小道は昼でもうす気
味悪いぐらいでありました。ですから子供たちが通るときは声をひそめ
たり、耳をふさいだり足音をしのばせて通るのが常でありました。
そんな、ある森の向こうに、ひとり暮らしのばっぱがたったひとりで
暮らしておりました。
めったに人も立ち寄らないという暮らしぶりでありました。
このばっぱが、ある秋の夕方、裏木戸のほりでなにか洗いものをして
いたとき、ポックリと死んでしまいました。
身内とてだれもありませんでしたから、近所の人たちで形ばかりの野
辺の送りをすませて成仏させたのでありました。
冬がすぐにやって来て、そしてまた、たんぽぽやすみれの咲く春にな
り子供たちは野山で遊びほおけるようになりました。
ときたま、あの死んだばっぱの家のまわりを通ったりするときには、
大人たちが話していたばっぱの最後のありさまを、それとなく思ってお
りました。
「ばっぱは、死ぬとき、ほりであずき洗ってだそうだ。」
ということから、だれ言うとなく
「あずきとぎばっぱ」
といわれるようになっていたのでありました。そうした方がだれにも通
りが良かったのでありました。
うわさ話はときとともに尾ひれがついてくるものであります。
「あんまりおそぐまで遊んで居っつうど、あずきとぎばっぱででくっ
かんな。」
「言うごどきかねづうど、あずきとぎばっぱさくっちぇやっかんな。」
などということになり、すっかり、森に住む鬼ばばあにされてしまった
のでありました。
うすぐらい森の下などを子どもたちが通りますと、きまったように
「あずき取ってくいましょうか。人とってくいましょうか。」
とはやしたてたりするのでありました。
高い木の幹にこっそりとがきだいしょうが腰をかけて下をみおろし、
「あずき取ってくいましょうか。人取ってくいましょうか。」
とおそろしい声でふしをつけていうのでありました。
すると、小さい子供などは、大声をあげて泣いたりするのでありまし
た。
あずきとぎばっぱの家はまもなく朽きはて、しの竹のやぶの中になっ
てしまいましたが、あずきを洗っていたというほりと言い伝えだけは今
もいきいきとつたわっているのであります。
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