COLUMN

第17話 勘作と与造

 むかしむかしのことでありました。
 伊達崎村の下郡というところに勘作という百姓が住んでおりました。
 この勘作、二十七・八。
 まだ嫁ももらわず、毎日気楽に家の百姓仕事を手伝っておりました。生来あまりな働き ものでもなかったと見えまして、気が向かないと、プイととなりの村あたりに遊びに行っ たり、山に行って遊び歩いたりするくせがありました。
 勘作は小さいときから動物好きでありました。
 犬でもねこでも、その辺からひろって来ては育てたり、小鳥をとったりすることもじょ うずでした。
 それで動物のことは天性の本能でたいへんよく知っておりました。
 なきまね、いろいろな習性はもちろんのこと、ちょっとしたしぐさも、勘作はのみこん でいて、よく人前で、
 「それ、犬の遠吠えだぞう。」
といっては、目を細めて、
 「クワーン、ウオーン。クワーン、ウオーン。」
と天空を向いて声を出しますと、あっちこっちの屋敷の犬がつられて遠吠えをするのであ りました。
 ねこの鳴き声などをいたしますと、ほんとうにねこが寄ってくるほど巧妙でありました。
 ある暑い夏の夕方のことでありました。
 阿武隈川のほとりを、わが家の方へと歩いていく勘作のはるか斜め前を、この辺では見 たことのない毛色のきつねがのこのこと通っていくのに気がつきました。
 「このあだりで見だごどの無え新米ぎつねだな。ひとつ、びくっとさせでくれっか。」
と思って、小刻みに足をはやめ、ころあいを見はからって、小石をひとつ拾うと、
 「ビューン。」
と投げつけたのでありました。
 きつねはびっくりして一目散に逃げましたが、習性で、ツッと立ち止まってくるりと振 り返ったのでありました。勘作はそのとき、すが目(※)でびっこのまねをして歩いてみせ たのでありました。
 きつねには、化かした者の特徴がわかったのかまたクルッと向きをかえて丘の向こうに 消えたのでありました。
 ところがそれから幾日かしますと、村うちに住むすが目でびっこの与造という人が、き つねに化かにされて、さんざんな目に合ったのでありました。
 「おれ、なんにもわりいごどしねのによォ、きづねのやづ、人んどごこだ目に合わせで よォ。」
 会う人ごとに与造はぼやくのでありました。
 勘作が知らんぷりをしていたのは、それはあたりまえのことでありましょう。

              ※すが目:片目の不具。めっかち、やぶにらみなど。

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