COLUMN
第19話 金の百合
むかしむかしのことでありました。
伊達の里全体はまだまだたいへん不便なところで、あしや雑木のおいしげっているとこ
ろも多くありました。
ちょっと低いところは、沼は湿地になっていたり、ふじやくずなどのつるがのびるにま
かせているというありさまでありました。
しかし、人々は、生活するのに都合のよいところを見付けましては、せっせと畑を切り
ひらき、田をつくるようになり、小さな”むら”が、あちこちにできていきました。
国全体から見ますと、奥州の地は、なにごとによらず、すこしずつすこしずつおくれて
おりました。
おくれておりますものの、”みち”がひらかれ、都との行き来も活発になってまいりま
すと、くらしは、すこしずつ変わっていったのでありました。
半田山にあった東(あずま)街道はそのころの主要な道路でありました。
高い所に登りますと、見はらしが良くききます。
木々も、低い所のようにはのびておりませんし、つる草だって同じであります。
ですから、平地を歩くよりはずうっと見通しがきいて、道にまようこともすくなく、か
えって安全だったのであります。
ある年の、秋のくれでありました。
1頭の、見るからにがっしりとした、黒いつやつやした馬が、そう重くはないけれども
何か、こう、ずしりと重そうな荷をつけて半田山の登りにかかっておりました。
「セィセー、セィセー。」といたわるように馬をひいている商人は、いかにも人のよさ
そうな人相でありました。
通いなれた道とみえまして、さして急ぐでもなく、歩を進めてまいります。
坂道を上りつめまして、一息入れ、下り坂にかかったそのときであります。
馬は、突然なにか、見えないかげにでもおびえたと見えまして、
「ヒーン。」
と一声、高々といななき、下りの坂をいちもくさんにかけ出しました。
商人は、いっしょうけんめいに馬のあとを追いました。
ややあって、馬のたづなを取ることができました。馬も商人も汗びっしょりで、まっ白
い息をはき出しておりました。
「やや、おい、荷はどうした。」
「どこへ、ほうり投げて来た。」
と馬へ語りかけましたがもちろん馬がこたえるはずはありません。
大事な荷物が無くなりましては、旅の意味がありません。
その付近をくまなく探しましたが、秋の陽はみじかくすぐに暮れてしまいます。
その上に枯れ葉などもつもっておりますので、その日はあきらめ、馬とともに岩場のか
げで寒さをこらえ、一夜をあかしました。
朝日の昇るのを待ちかねましてまた、きのうと同じようにくまなくあたりを探しました
が見あたりませんでした。
そんなことが幾日かつづきますうちに、山仕事やきのことりの者たちの目にとまり、ほ
どなく北半田あたり一帯にひろまっていきました。
ひまにまかせた野次馬や手伝いも加わって探したのでありましたが、ついぞ見つからな
いままに半田山に初雪が降ったのでありました。
もう、雪が降りましては、手も足も出ません。
あきらめるしかありません。
商人はいたしかたなく、
「いろいろとお世話になり申した。馬の背に積んであったのは、都へとどける黄金だが
これほどまでしても見つからないのなら、あきらめ申し、また出なおす以外にみちはござ
らぬ。
さんざんと、ごやっかいをかけ、また、ほねおりもおかけいたしたが、もしも、よろし
ければ春になったらさがしてくだされ。もちろん、すべてを上げ申す。」
と言って、空馬(からうま)をひいて、とぼとぼ二十日ばかり前に来た道を引き返して
いったのでありました。
黄金、黄金。
黄金の宝が、半田山のてっぺんの岩場のあたりにころがっているといううわさは、一冬
のあいだに、近村にまでひびきわたりました。
みんなが、雪どけを待っておりました。やがて雪解け。
春になりますと、われも、われもと山に登り探しましたがやっぱりだめでした。
その春の終わり近くに、北半田に迷い込んだようにして住みついた六部行者が、この話
をききますと、
「山のなかはら岩のかげ、朝日さすとき、金の百合。」
つづけて、
「ひと日だけ、ひと日だけ。」
と言ってやがてまた立ち去ったのでありました。部落の物知りは、それを、
「半田山の中ごろの岩のかげ、朝日のあたるところに一日だけ、金の色をした百合の花
の咲く所がある。そこの根もとに宝はあるというたとえだな。」と解いてくれたのであり
ました。
それからというもの、夏になりますと、北半田の人たちはみんな早おきになって、たっ
た一日しか咲かないといわれる、金色のはなびらをもった、まぼろしの百合をたずねてあ
るいたのでありました。
しかし、それも、何の手がかりもなくて、年を重ねるばかりでありました。
夏の朝日きて半田山の方を見ますと、ときおりキラキラかがやくものが見られます。あ
れは、きっと金の百合の花びらの輝きにちがいありません。
でも、今では、半田山にたった一本しかない、しかも一日しか咲かないという、金の百
合をひとりじめにしようなどという人はいないようであります。
そのあとで、あの商人が、また、半田山の東街道を通ったかどうかは、だれも聞いてお
りません。
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