COLUMN

第20話 ついたかぁ佐五平

 むかし、むかし伊達の伊達崎村には、伊達政宗の一族の伊達式部という武士が住んでお
りました。
 そのあたりは一帯がのろーっとした坂になっていました。その坂を式部坂といっており
両側には大きな木がうっそうとしげって昼でも気味のわるいほどでありました。
 このあたりの北沢というところに剣術の達人がおり、近在の若者達を集めては教えてお
りました。
 そのなかに半田村の谷地から熱心にけい古に通って来る佐五平という若者がおりました。
 佐五平は若者に似合わず終わってからもあれこれと習って帰るのでたいてい夜ふけの道
をたどるのが常でありました。
 その夜もいつものことで、夜おそくに式部坂をとろとろっと上っていきますと、坂の中
ほどの木の下のところが、ぼおーっと明るくなっていて、そこに、きれいな、おいらんが
いるではありませんか。
 よくよく見ますと、大きな火鉢によりかかって、しきにりおはぐろ(※1)をつけて歯
をそめているところでありました。
 佐五平がなおも近よっていきますと、いきなり、あやしい声で、
 「ついたかぁ、佐五平。」
といって歯をむき出したのでありました。
 すると、今のいままできれいなおいらん(※2)の顔は急になにものにもたとえようの
ないほどのおそろしい顔にかわったのでありました。
 しかし、剣の道できたえている佐五平のことでありますからそれほどのことにはいささ
かも心をゆるがせず、すたすたとその夜は通り過ぎて谷地のわが家へ戻ったのでありまし
た。
 ところが、その次の夜のかえりも
 「ついたかぁ、佐五平。」
といって同じことがくり返されました。しかし心にはなにも思わず前の晩と同じ平らな心
でわが家へ戻りました。
 その次の晩もまた、全く同じころの時刻に、同じようなところで、おいらんが出て来て
 「ついたかぁ、佐五平。」
とやったのでありました。もう三日目であります。たいていにしてもよかろうと思い、佐
五平が、
 「ついた。ついた。とってもよくついたぞう。」
と言って近より、もっていた竹刀で、おいらんの前の火鉢をバシッと打ったところおいら
んの化けの皮がはげて古ぎつねになり、ふっとんで逃げていってしまったのでありました。

 ※1 おはぐろ=結婚した女性などが歯を黒く染めたりするのにつかった粉
 ※2 おいらん=遊女のこと。そのなかでもわりあい上の部にあるものをいう。

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