COLUMN
第21話 半田の弘法清水
むかしむかしのことでありました。
第九話で語りました、睦合村の弘法水のそれと同じように、南半田の里にのこっている
弘法清水の話であります。
弘法大師さまは、南半田の、明蔵寺の南の方の、とある家に立ち寄りまして
「水をいっぱい所望いたしたい。」
と申したのでありました。
るすばんのばっぱは手おけの中をのぞきましたが、汲みおきの水も残りすくなく、うす
よごれておりましたので、
「坊さまさ、あげ申すにゃぁ、こだ水でぁ、ばちあたりやす。今、いきいい水をくんで
きてさしあげやす。ちょっこら休んででくなんしょ。」
といって手おけをさげてでて行き、ややしばらくかかって、うまそうな水をくんでまいり、
さし上げたのでありました。
「いや、せっかくの御好意なによりうれしゅうござった。さてどこまで汲みに行かれた
かな。」
とおたずねになりましたので、ずっと下の沢まで行って来たと告げますと、
「それでは、毎日が大変なこと。せめて飲み水だけでもこの辺に出して進ぜよう。」
といって二杯目ののみのこしの水を、四・五てき、南の方に庭のすみにたらしました。
すると、そこから、やがてきれいな清水がコンコンとわくようになったのでありました。
このお坊さん。のちに、高名な弘法大師さまとわかりますと、だれいうとなく、この清
水を、『弘法清水』と呼ぶようになったのでありました。
この弘法清水のずうっと数丁下の方には、むかし最上街道といわれた道がありました。
この道は、今も交通の要路でありますが、そこには、
『笹屋の弘法水』
といわれる清水があります。
前の方のやりとりは、どこの弘法水も同じであります。だから略します。
『前の部落では水をごちそうになれなかったが、ここでは手厚いもてなしを受け申した。
見たところ、この辺りによい水には恵まれぬようでござるから、ひとつこの辺に出して進
ぜよう。」
と申しまして、弘法大師が待っておりました錫杖(しゃくじょう)で、家の前の道のわき
の石をこつこつとつつきますと、その石の下から、コンコンといい水がわき出したのであ
りました。
この付近一帯、それまでは金気(かなけ)の多い水だったのでありますが、えたいの知
れないお坊さんの杖のおかげで玉のようないい水がわいたのはなんとしてもありがたいこ
とでありました。ここでも弘法大師ということは後で判ります。
この笹屋の弘法清水は、小坂峠を往来する人々にたいそうしたしまれていたということ
であります。
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