COLUMN
第25話 娘の里帰り
むかしむかしの話です。
桑折から南の長岡村にいく間の台の坂あたりは人家がなくてさびしいところであり
ました。
たとえ、人家があったとしましても奥州街道の松並木のおくの方に一軒、むこうの
小川のふちに一軒というふうにポツンポツンであったのでありましょう。
今でも、だれでもそうですが町をはずれて急に暗い道に入りますと。なにかこう、
背中がぞくぞくっとするものです。
暗いところはおっかないものとする心がそうさせるのでありましょうか。
ある秋の暮れのことでありました。
ひとりの馬方が桑折を出て長岡村の方へとぼとぼと馬をひいて歩いておりました。
もう、日は暮れてはるか西の吾妻の峰が今にもやみの中に消えようとしているとこ
ろでありました。
台の坂をのぼっていきますと、一匹のきつねが坂の上の方で、はきすてられた馬の
わらぐつを空にほうり上げたり、ころがしたりしてあそんでおりました。
だんだん馬方が近寄りますと、きつねは、ヒョイと馬のわらぐつを頭にのせ嫁さま
に化けたかと思うと子供までおぶい、子守唄をうたいながら、先に立って歩き出した
のでありました。
馬方は、心の中で、
「ハハーン、はじめからおれが気がついていたのも知らねえで。ひとつどこまで行く
のかあとを追っかけて行って見っぺえ。」
と思い、化かされたふりをしてついていきますと、長岡の村はずれのところでヒョイ
と左に曲がったと思うと一軒の農家にはいっていきました。
障子の穴から馬方がのぞいて見ますと、家の中では、
「おや、娘が来た。それそれ孫も来た。よく来たなあ。」
と大変な喜びようでありました。娘の里帰りですから当然でありましょう。
馬方は
「きつねに化かされているのも知んにぇで。ようし教えてくれっぺ。」
と思い戸をあけて、今まで見ていたことを手短かに語りました。するとその家の人は
いちように
「なに語ってるこのやろう、これはおらいの娘で嫁さ行ってだのはじめで孫んどごせ
で来たんだぞ。」
というのでありました。馬方もいっしょうけんめい、言いはりましたがまもなく追い
はらわれたのでありました。
後で聞いたところでは、まことにそのとおりで、きつねはいっぺんは娘と孫に化け
たものの、いつの間にか本物と入れかわって、馬方にそのあとをつけさせたというわ
けでありました。
毎日のように通う馬方が、まんまと化かされるぐらいでありましたから、お祭の帰
りなどにおみやげを持って一ぱい気げんで夜道などをたどれば、このようなことがよ
くあったのでありましょう。
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