COLUMN

第26話 まんざいらく・まんざいらく

 むかしむかしのことでありました。
 桑折あたり一帯はしょっちゅう地震がありました。しょっちゅうとは申しましても
はたして今より多かったものかどうかは定かでありませんが、大むかしは、天変地異
は今よりもはるかに多かったでありましょう。
 おそろしいものの筆頭。それは地震でありました。
 『地震・雷・火事・おやじ』、並べて見ますと、地震は予告なしに広範な土地に被
害をもたらすという点で、たしかに不気味でこわいものだったにちがいありません。
 ある年の春のことでありました。
 野は緑に萌え、花開き、鳥歌うのどかな昼どきでありました。
 万才楽山にわらび取りに出かけた、谷地の太兵衛ら数人は、その山のてっぺんの見
はらしのよい、八畳岩(※1)の上で、ずんないむすびをぱくついておりました。
 まあ腹も七分目になったころ、かすかに地揺れがはじまりました。誰もが、
 「ありゃー、地震のようだな。」
 「ほだ。ほだ。たいしたごどもあんめえで。」
などと語りながら、飯をたいらげ、食休みをして、またひとかかえほども、わらびを
とり、山をゆっくりと下って来たのでありました。
 森をぬけ、林を通り、やがて小阪の方の人家にさしかかりますとなにやらただなら
ぬ気配でありました。
 「なにが、あったのがい。」と尋ねますと、
 「何だい。あんだら。昼ま、あだんでっかい地震あったべした。」
と言われたのでありました。
 北半田の栗和田、御免町、南半田の田町と歩みをすすめてまいりますと、土蔵のか
べがくずれ、道のところどころには地割れさえみえていたのでありました。余震もい
くたびかありました。
 太兵衛らは小走りにわが家へ急いだのは当たり前のことでありましょう。
 ややしばらく経ってから、太兵衛らだけが地震に気付かなかったことを知りました。
 「そうだ。あの、万才楽山のてっぺんの八畳岩は、ずうっと土の中まで根っこはっ
ていで、そのせいで動がねんだべで。ほんじゃがら、だれも、地ゆれのごど気いづが
ながったんだで。」
 「万才楽は地震に安全などごだなや。」
といううわさが、どんどんと地震のゆれのようにひろがっていったのでありました。
 それから、だれいうともなく、地震がありますと、万才楽山のご利益をさずかりた
いということで、
 「万才楽、まんざいらく」とゆれがおさまるまで唱えるようになったのであります。
 ※1 八畳岩=たたみの八枚もしけるような広い岩の意味

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